読み終えました。
セメント樽の中の手紙
作品を、もう少し知る
仕事から手紙へ移る構成、手紙に書かれた問い、ことばと発表時期を短くまとめました。
物語を短く振り返る
セメントを運ぶ松戸与三は、十一時間の仕事を終える直前、樽から小箱を拾います。家で箱を開けると、セメント袋を縫う女工からの手紙が入っていました。手紙には、恋人が工場の機械に巻き込まれ、セメントになったことが書かれています。読み終えた与三は酒を飲み、何もかも壊したいと叫びます。しかし妻に止められ、七人目の子どもを身ごもった妻を見ます。
本文から分かること
本文は与三の仕事と暮らしから女工の手紙へ移り、ふたたび与三の暮らしへ戻ります。手紙だけで終わらず、最後にあるのは子どもたちの騒ぎと、妊娠している妻のいる長屋です。
冒頭では、与三の髪や鼻の下がセメントで灰色に覆われています。手紙の中では、女性の恋人が機械に巻き込まれ、セメントになったと語られます。与三はその手紙を、仕事でセメントにまみれた自分の家へ持ち帰ります。
手紙の女性は、受取人へ何度も「労働者ですか」と問いかけます。本文は受取人を決めていませんが、実際にその手紙を読む与三も、休む間もなくセメントを運ぶ労働者です。
女性は最初、恋人がセメントになって劇場や邸宅に使われるのは嫌だと書きます。その直後には、どこにでも使ってほしいと言い直します。使ってほしくない気持ちと、どこにでも使ってほしい気持ちが、同じ手紙に残っています。
本文には、与三が手紙へ返事を書く場面はありません。最後に残るのは、酔って暴れたい与三の気持ちと、養わなければならない家族の存在です。そのあと与三がどうしたかを示さずに終わります。
ことばと時代
- 破砕器(クラッシャー)
- 石などの固い材料を砕く機械です。手紙の女性の恋人は、破砕器へ石を入れる仕事をしていました。
- 経帷布(きょうかたびら)
- 本文で、死者に着せる衣を指すことばです。辞書では一般に「経帷子」と書きます。女性は、恋人にそれを着せる代わりに、自分がセメント袋を縫っていると書きます。
- 作品の発表
- 『セメント樽の中の手紙』は、1926(大正15)年1月発行の雑誌『文芸戦線』3巻1号に掲載されました。本文末尾にも「大正十五年一月」とあります。
読んだあとに